線虫の塩嗜好性を逆転させる新たな神経回路の発見
最近、岡山大学と室蘭工業大学の研究チームが、線虫における塩味の好みを環境に応じて変化させる仕組みを明らかにしました。これは、線虫が育った環境の塩濃度を記憶し、その記憶をもとに進む方向を決定するという新しいタイプの学習メカニズムにフォーカスしたものです。
研究の背景
線虫と呼ばれる微小な生物は、周囲の環境に応じて食物の好みを変える能力を持っています。特に、塩味に対する嗜好は、その育成環境の塩濃度によって大きく影響されます。今回の研究では、育成環境が高塩濃度であった場合、線虫は塩を好む一方、低塩濃度の環境で育った場合には塩を嫌うことが明らかになりました。
この現象は、線虫の神経回路が環境情報をどのように処理し、それに基づいて行動を変えるのかを理解する上で重要な手がかりとなります。
新たな神経回路のメカニズム
研究チームは、機械学習の一種である進化的アルゴリズムを用いて、線虫の塩走性を模倣した神経回路のモデルを作成しました。このモデルによって、以下の三点が示されました:
1. 環境の塩濃度を記憶する仕組み。
2. 記憶を基に塩嗜好性を逆転させるシナプス可塑性の新型メカニズム。
3. 好ましい塩濃度の方向に進むための神経回路の働き。
特に注目すべきは、このシナプス可塑性が、線虫の感覚ニューロンと介在ニューロン間の結合特性を、興奮性から抑制性へと逆転させることで実現される点です。この点は、哺乳類の神経回路では観測されていない新しい現象です。
研究の意義
本研究の成果は、種を越えた走性や記憶の形成に関する理解を深める可能性を持っています。特に、神経回路における連合学習と記憶の読み出しに関するメカニズムの理解が進むことで、様々な生物における学習能力の解明に寄与する可能性があります。さらには、今後の neuroscience(神経科学)研究においても基礎データとして活用できるでしょう。
まとめ
岡山大学と室蘭工業大学の協力により、線虫の塩嗜好性を逆転させる神経回路のメカニズムが解明されたことは、神経科学や行動学の進展に寄与する重要な成果です。この研究は2025年2月に国際科学誌「elife」に発表されました。
研究の詳細については、
岡山大学の公式ウェブサイトにてご確認いただけます。この研究結果により、線虫を通じて神経回路の新しい理解が深まることが期待されます。