札幌市消防局の新しい取り組み
札幌市消防局は、業務の効率化と質の向上を目指し、TXP Medical株式会社の開発した救急隊向けアプリ「NSER mobile」を導入しました。このアプリは、Claris Internationalが提供するローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker」を基盤にしており、特に救急搬送業務のデジタル化が求められる中で、その導入が実現しています。
 背景: 救急出動数の増加と搬送困難問題
人口約200万人を有し、年間1500万人以上の観光客が訪れる札幌市では、年間約12万件の救急出動が行われています。高齢化が進む中、救急搬送件数は年々増加しており、現場の隊員は大きな負担を強いられています。特に新型コロナウイルスの影響で、病院への受け入れ確認を行う際の煩雑さが問題視されており、複数の医療機関に確認のための電話をかける作業は隊員にとって大きなストレスになっていました。
救急課の渡邊佳祐氏は、こうした現場の状況を踏まえ、「労働負荷を軽減し、効率的な救急活動を行うためには、デジタルシステムの導入が不可欠であった」と語っています。
 NSER mobileの導入
「NSER mobile」は、救急現場での情報共有を可能にするアプリです。iPadやiPhoneを使用して患者情報の入力を行い、医療機関への搬送先情報などをリアルタイムで伝達できます。これにより、従来の電話や紙によるコミュニケーションをデジタル化し、救急搬送のスピードと効率が大幅に向上しました。
現在、札幌市内の36救急隊、約350名の隊員が「NSER mobile」を活用しており、さらには周辺地域の恵庭市消防本部や石狩北部地区消防事務組合とも情報を共有できる体制を整えています。
 導入効果
「NSER mobile」の導入により、以下の効果が実現しました:
1. 
受け入れ確認の一括送信:複数の病院への受け入れ確認がアプリから一度で送信でき、救急搬送の時間を大幅に短縮しました。
2. 
事前の写真送付:外傷の写真を医療機関に送ることで、事故現場の状況を早期に共有でき、医師が迅速に治療方針を決定できるようになりました。
3. 
書類の事前共有:iPadで免許証や保険証を撮影することで、自動的に情報が病院に送信され、受付の準備がスムーズに。
4. 
事務処理の効率化:報告書作成などの事務作業が減少し、隊員が教育や休憩に充てる時間が増えました。
5. 
GPSによる位置情報把握:アプリを通じて、救急車の正確な位置情報が把握可能となり、より迅速な対応が実現しました。
 今後の展望
TXP Medicalの代表取締役CEOであり、救急科の専門医でもある園生智弘氏は、現場の声を重視してシステム開発を進めていく意義を語ります。「医療と救急隊のデジタル化は止まらせることができません。札幌での成功を全国に広げ、質の高い医療を提供したい」と意気込みを示しています。札幌市の取り組みは、他の消防本部からも注目されており、全国的な医療の質向上にも寄与する可能性を秘めています。
これからも、救急医療におけるデジタル技術の進化とそれに伴う社会の変革に期待が持てます。